マイクロコピーとは、ボタンの周辺やフォームの入力欄など、サイト上のごく短い文言のことです。見出しや本文のようにページの主役にはなりませんが、ユーザーが行動する直前の不安を取り除く役割を担っています。デザインの変更やページの作り直しを伴わず、テキストの書き換えだけで着手できるため、CVR改善の打ち手としては最も軽い部類に入ります。
先日、BtoBのクライアントから「フォームまでは来ているのに送信されない」という相談を受けました。アクセス解析を見ると、フォームページへの到達は月に400件近くあるのに、完了はその数%。ヒートマップで確認すると、多くのユーザーが送信ボタンの手前で止まっていました。
このとき変更したのは、送信ボタンの下に一行を足しただけです。「担当者より2営業日以内にご連絡します。しつこい営業はいたしません」。デザインもフォーム項目も一切触っていません。
マイクロコピーはサイトのどこにあるのか
マイクロコピーという言葉は範囲が広く、人によって指すものが少し違います。実務では、次のような箇所の短文をまとめてマイクロコピーと呼んでいます。
- ボタンのラベルそのもの(「送信する」「無料で相談する」)
- ボタンの直前・直後に置く補足文
- フォームの項目名と、入力欄内のプレースホルダー
- 入力エラー時に表示されるメッセージ
- 価格や料金の周辺に置く注釈
- 空の状態や完了画面に表示される案内文
共通しているのは、いずれもユーザーが何かを判断したり操作したりする直前・直後に現れるという点です。だからこそ、短いわりに行動への影響が出やすい領域になります。
なぜ短い一文で数字が動くのか
ユーザーがコンバージョンの手前で止まるとき、その理由の多くは「よくわからない」か「ちょっと怖い」のどちらかです。
問い合わせフォームの送信ボタンを前にした人が考えているのは、たいてい次のようなことです。送信したら営業電話がかかってくるのではないか。返信はいつ来るのか。この後さらに入力画面が続くのではないか。個人情報はどう扱われるのか。
これらは、ページの本文を丁寧に読めば解消するかもしれません。ただ、送信ボタンの前まで来た人は、もう本文を読み返しません。その場で答えが見つからなければ、判断を保留して離脱します。マイクロコピーは、この「その場で」に答えるためのものです。
不安が行動を止めるという構図は、ECの領域では数字でも裏づけられています。Baymard Instituteの集計によると、オンラインショッピングのカート放棄率は50件の調査の平均で70.22%。放棄の理由として最も多く挙がるのが、送料や手数料を含めた最終金額が想定より高くなることです。金額そのものより、「思っていたのと違った」という不意打ちが効いています。事前に一行、「送料は購入手続き画面で確認できます」と添えるかどうかで、受け取られ方は変わります。
BtoBサイトでも構図は同じです。何が起きるかを先に知らせておけば、ユーザーは身構えずに進めます。
CVRに効きやすい5つの設置場所
どこから手をつけるか迷ったときは、次の順で見ていくと当たりをつけやすくなります。
送信ボタンの直下
最も費用対効果が高いのがここです。冒頭のクライアントの例もこの位置でした。書くべき内容は、送信後に何が起きるかの予告です。
- before:(何もなし)
- after:担当者より2営業日以内にご連絡します。しつこい営業はいたしません
「営業しない」と明言することに抵抗を感じる企業もありますが、書かなければユーザーは勝手に最悪のケースを想定します。実際に電話をかける運用なら「お電話でご連絡する場合があります」と正直に書くほうが、後のクレームも減ります。
ボタンのラベル
ボタン内の文言は、行動の主語をユーザー側に寄せると反応が変わります。
-
before:送信
-
after:無料で相談する
-
before:ダウンロード
-
after:資料を無料でダウンロード(30秒で完了)
「送信」はサイト側の処理を表す言葉で、ユーザーにとっては自分が何を得るのかがわかりません。ラベルの設計は単独でも論点が多い領域ですので、CTAボタンの最適化もあわせて確認してください。
フォームの項目名とプレースホルダー
入力項目が多いフォームほど、一つひとつの項目に「なぜこれを聞かれるのか」という疑問が生まれます。Baymard Instituteのベンチマークでは、米国の一般的なチェックアウトフローに初期表示される入力要素は平均23.48個、フォームフィールドに限っても14.88個で、理想は7〜8フィールド程度とされています。項目を減らすのが第一の対策ですが、減らせない項目には理由を添えます。
- before:電話番号(必須)
- after:電話番号(必須)/ご連絡がつかない場合のみ使用します
項目数そのものの削り方はフォーム最適化(EFO)で扱っています。
エラーメッセージ
入力エラーは、ユーザーが最もストレスを感じる瞬間です。にもかかわらず、多くのサイトで「入力内容に誤りがあります」のような、どこが悪いのかわからない文言が使われています。
- before:入力内容に誤りがあります
- after:メールアドレスに「@」が含まれていないようです。ご確認ください
どこを、どう直せばよいかまで書くのが原則です。エラーの文言を直しただけでフォーム完了率が動くことは珍しくありません。
価格・料金の周辺
料金表の近くに置く一行も、判断を左右します。「初期費用は別途お見積もり」とだけ書かれていると、ユーザーは上限のわからない金額を想像します。おおよそのレンジや、無料の範囲を明示するほうが問い合わせにつながります。
書くときの原則
現場で意識しているのは3点です。
1つ目は、ユーザーの言葉で書くことです。社内で使っている用語をそのまま置かないようにします。「お申し込みフォームへ遷移します」ではなく「入力画面に進みます」と書きます。
2つ目は、具体的な数字を入れることです。「すぐにご連絡します」より「2営業日以内にご連絡します」のほうが信頼できます。書いた以上は守る必要がありますので、運用と揃った数字にしてください。
3つ目は、盛らないことです。マイクロコピーは信頼を作るための文言ですので、誇張すると逆効果になります。「業界No.1」のような表現をボタン周辺に置くと、かえって身構えられます。
効果をどう検証するか
書き換えたあと、効果を測る方法は2つあります。
1つはABテストです。ただし、マイクロコピーの変更は多くの場合CVRの変化幅が小さいため、統計的に判定できるだけのセッション数が必要になります。元のCVRが1%のサイトで20%の改善を検出するには、各パターンに4万セッション以上が必要という水準です。トラフィックが十分でない場合、テストを回しても結論が出ません。必要セッション数の目安とツールの選び方はABテストツールの比較にまとめています。
もう1つは、前後比較と中間指標の併用です。トラフィックが少ないサイトでは、最終CVではなくフォーム到達率やボタンのクリック率など、発生数の多い指標で変化を見ます。厳密な因果は取れませんが、方向性の判断には使えます。
変えても意味がないケース
最後に、マイクロコピーで解決しない場合の話をしておきます。
送信ボタン下の一行で改善するのは、あと一歩で迷っている人の背中を押す部分だけです。そもそも提供価値が伝わっていない、価格が競合と比べて明らかに高い、フォームの入力項目が30個ある、といった構造的な問題があるサイトでは、文言をいくら磨いても数字は動きません。
判断の順序としては、まずどこで落ちているかを特定し、原因が「迷い」なのか「そもそも伝わっていない」のかを切り分けます。後者であれば、LPのUI改善やコンテンツ自体の見直しが先です。原因の切り分け方はCVRが低い原因で整理しています。
とはいえ、マイクロコピーの書き換えは、デザイン変更や開発を伴わずに今日から着手できる数少ない施策です。改善の優先順位を考えるうえで、最初に試す価値のある領域だと考えています。
現状のサイトで、どこから手をつけるか
自社サイトのどの文言がボトルネックになっているかは、アクセス解析とヒートマップを突き合わせないと判断できません。株式会社ティーラが提供するCVアップパートナーズでは、計測環境の整備からユーザー行動の分析、改善案の設計・実施、効果検証までを一貫して支援しています。
まずは無料のサイト診断で、自社サイトのどこに改善余地があるかを把握するところから始めてみてください。
参考文献
- Baymard Institute「Cart Abandonment Rate Statistics」(カート放棄率70.22%・50調査の平均) https://baymard.com/lists/cart-abandonment-rate
- Baymard Institute「Checkout Usability」ベンチマーク(入力要素数の平均と理想値) https://baymard.com/research/checkout-usability