AI導入の相談を受けていて、この半年で質問の中身が変わってきました。以前は「AIエージェントって何ですか」でしたが、最近は「うちのどの業務に入れられますか」です。

ただ、この質問にその場で答えるのは難しいことが多いです。理由は、業務の名前だけでは判断できないからです。同じ「問い合わせ対応」でも、FAQで答えが確定する問い合わせと、契約内容を見ながら個別判断が要る問い合わせでは、任せられる範囲がまったく違います。

先に結論を書いておきます。AIエージェントが向いているのは、「手順が毎回同じではないが、正解かどうかは後から確認できる」業務です。手順が完全に固定なら従来の自動化のほうが安く確実ですし、正解を確認する手段がない業務は、自律的に動かすとリスクだけが増えます。

部門別の使いどころを、任せる範囲とセットで整理します。

業務領域向いている作業人が止める箇所
カスタマーサポート一次回答の作成、過去対応履歴の検索、回答候補の提示顧客への送信、返金・解約など契約に関わる判断
営業商談前のリサーチ、議事録からの次アクション抽出、提案書の下書き見積金額の確定、先方への送付
バックオフィス請求書の内容照合、経費の勘定科目の一次仕分け、定期レポート作成支払実行、会計確定
マーケティング競合調査、記事構成案、広告文の複数案生成、レポート集計入稿、公開、予算変更
採用応募書類の要約、日程調整、質問リストの作成合否判断、候補者への通知

共通しているのは、「作るところまではAI、外に出す操作は人」という線引きです。

カスタマーサポート──最も相性が良い領域

Anthropicが公開している開発者向けガイドでも、エージェントが力を発揮する領域としてカスタマーサポートとコーディングの2つが挙げられています。会話の流れを保ちながら外部の情報とアクションにアクセスする必要があり、かつ「解決したかどうか」で成否が測れるためです(出典:Anthropic「Building effective agents」 https://www.anthropic.com/engineering/building-effective-agents )。

実務での組み方はシンプルです。問い合わせが届いたら、エージェントが過去の対応履歴とFAQ、必要なら顧客の契約情報を横断して調べ、回答文の草案と根拠になった資料を並べて担当者に渡します。担当者は内容を確認して送信する。この形にすると、返信までの時間が短くなるうえに、新人でもベテランと同じ資料にたどり着けるようになります。

ここで重要なのは、送信ボタンを人が押す設計にしておくことです。エージェントは調べる範囲を自分で決めるので、想定外の資料を根拠にすることがあります。草案の段階で人の目が入れば実害はありませんが、自動送信にすると誤りがそのまま顧客に届きます。

Webサイト側でチャットボットとして接客まで担わせる構成もあります。この場合の費用感や設計の考え方はチャットボット導入費用の相場Web接客ツールの導入にまとめています。

営業──商談の前後を削る使い方

営業でAIエージェントを入れるとき、最初に触るべきは商談そのものではなく、その前後にある準備と処理です。

商談前であれば、相手企業のサイト、プレスリリース、採用ページ、決算情報を横断して調べ、「今どんな課題を抱えていそうか」の仮説まで出させます。担当者が30分かけていた下調べが数分で済むようになり、しかも調べ漏れが減ります。

商談後であれば、議事録から次のアクションと期限を抽出し、CRMへの入力内容を作らせる。ここは手作業だと後回しになりやすい部分なので、効果が体感しやすい領域です。

一方で、見積金額の確定と先方への送付は人が持つべきです。金額は社内の判断基準や過去の取引条件が絡むため、エージェントが持っている情報だけでは正しく決められません。営業領域でのAI活用全般は営業でのAI活用でも扱っています。

バックオフィス──照合作業から入る

経理や総務のような管理部門では、「照合」がエージェントの入り口として扱いやすいです。

請求書の金額と発注データが一致しているか、契約書の更新日が近づいていないか、経費申請の内容が規程に沿っているか。こうした確認作業は、判断そのものは単純でも、複数の場所を見に行く必要があるため手間がかかります。エージェントは、この「複数の場所を見に行く」部分が得意です。

ただし、支払いの実行と会計上の確定処理は自動化の対象から外してください。金銭が動く操作は後戻りができません。エージェントには「不一致があるものだけを一覧にする」ところまでを担当させ、処理は人が行う。この分担であれば、確認漏れを減らしつつ事故のリスクを増やさずに済みます。

議事録や資料作成まわりの自動化はAI議事録の自動化AIでの資料作成で個別に解説しています。

マーケティング──調べる作業と作る作業を分ける

マーケティング業務では、調査と制作でエージェントの使い方が変わります。

調査系は任せやすい領域です。競合サイトの構成や訴求の切り口を横断的に調べ、比較表にまとめる。広告の配信実績を集計してレポートの下書きを作る。いずれも元データが確認できるので、出力が正しいかどうかを後から検証できます。

制作系は、下書きまでに限定するのが現実的です。記事構成案や広告文の複数案を出させて、選定と仕上げは人が行う。生成物をそのまま公開すると、事実確認が抜けたコンテンツが世に出るリスクがあります。実際、出典のない数値がそのまま原稿に紛れ込んでいたケースを何度も見ています。

広告の運用については、入稿と予算変更を自動化の対象にしないことをお勧めします。配信設定の変更は即座に費用に跳ね返るためです。

採用──候補者に触れる直前で止める

応募書類の要約、面接日程の調整、職種ごとの質問リストの作成。このあたりは工数削減の効果が出やすい部分です。

一方で、合否の判断と候補者への連絡は人が行う前提を崩さないほうがよいと考えています。採否は候補者の人生に関わる判断であり、判断根拠を説明できる状態にしておく必要があるためです。エージェントの出力は「書類のどこに何が書かれているか」の整理までにとどめ、評価は人が下す。この線引きを最初に決めておくと、運用に入ってから迷いません。

エージェント化しないほうがよい業務

相談を受けた中で、「これはエージェントにしないほうがよい」と伝えた例も挙げておきます。

手順が完全に固定されている業務は対象外です。毎月同じファイルを同じ場所にコピーして同じ形式に変換する、といった作業は、従来の自動化ツールやスクリプトのほうが安く、速く、確実に動きます。Anthropicのガイドでも、多くの用途では単発の呼び出しで十分であり、エージェント化は処理時間とコストを性能と引き換えにするものだと注意が促されています。複雑にする前に、まず単純な方法で足りないかを確認する順序が大切です。

正解を確認する手段がない業務も避けたほうが無難です。出力が正しいかどうか誰も検証できない領域では、間違いに気づかないまま業務が進みます。

扱う情報の機密度が高く、アクセス範囲を絞りきれない業務も同様です。エージェントは目的達成のために自分で参照先を広げるので、権限設計が曖昧なままだと想定外のデータに触れます。社内ルールの整え方は生成AIの社内ルールを参考にしてください。

導入の順番

最後に、進め方を整理します。

最初に選ぶ業務は、失敗しても実害が小さく、かつ現在の工数が明確なものにしてください。工数がわかっていないと、導入後に効果を説明できなくなります。

次に、任せる範囲と人が止める箇所を紙に書き出します。ここを曖昧にしたまま動かし始めると、「どこまで確認すべきか」が担当者ごとにばらついて、結局すべて確認し直すことになります。

そのうえで、2〜4週間ほど並走期間を置きます。エージェントの出力と人の判断を突き合わせて、ずれが出るパターンを洗い出す。この期間を飛ばして本番運用に入ると、想定外の出力が出たときに一気に信頼を失います。

自分の手で組んでみたい場合は、ノーコードで作れる環境から始めるのが早いです。ノーコードAIツールDify入門で具体的な手順を解説しています。仕組みそのものを先に押さえたい場合はAIエージェントとはから読むと、この記事の内容がつながりやすくなります。

実際の使い方を知りたい方へ

総務省の令和7年版情報通信白書によると、日本企業で生成AIを「積極的に活用する」「活用領域を限定して利用する」と回答した割合は49.7%で、前年度の42.7%から増えています。一方で、導入における課題としては「実際の利用方法がわからない」ことが上位に挙がっています(出典:総務省「令和7年版情報通信白書 企業におけるAI利用の現状」 https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r07/html/nd112220.html )。

方針は決まっても、具体的な使い方の情報が足りていない。相談を受けていても、この状況はよくわかります。事例が社外に出てこない領域なので、調べても一般論しか見つからないのが実情です。

弊社が運営に関わっているAI活用コミュニティ「RIALA(リアラ)」では、参加者が自分の業務でどうエージェントを組んだかを実践ベースで共有しています。うまくいった構成だけでなく、「この業務は任せたら失敗した」という話が出てくるのが、記事や資料との一番の違いだと感じています。

自社の業務に落とし込む前に、他社がどこで線を引いているかを見てみたい方は、下のリンクから覗いてみてください。

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参考文献