先月、あるBtoB企業のクライアントから「明後日の役員会で使う提案資料、なんとかなりませんか」と連絡をもらいました。

ヒアリング内容はSlackに断片的に残っている。データはExcelに入っている。ただ資料の「形」はまだ何もない。受託で仕事をしていると、こうした状況は珍しくありません。

数年前であれば、まずパワポを開いて白紙のスライドと向き合い、構成を考え、テキストを打ち込み、グラフを作り、デザインを整えて、丸2日は使っていたと思います。このときはClaude(Anthropic)に構成案とドラフトを出させてから自分で仕上げる進め方にしたところ、実質6時間で納品まで持っていけました。

この「AIに下書きを任せて、人間が仕上げる」という分業は、あるプロジェクトでもほぼすべての資料作成で標準になっています。ここでは、パワポ・Word・Excelそれぞれで具体的にどうAIを使っているかを紹介します。3つを均等に分けるのではなく、もっともインパクトが大きい「パワポの構成案作成」を厚めに、あとの2つは実務で使えるポイントに絞っていきます。

パワポの構成案作成が一番効く

資料作成の工程を分解すると、だいたいこうなります。

  1. 目的とターゲットの整理
  2. 構成(ストーリーライン)の設計
  3. 各スライドのテキスト作成
  4. データ・グラフの作成
  5. デザイン・レイアウトの調整

この中で、AIがもっとも威力を発揮するのは2と3です。「何を、どの順番で、どう伝えるか」の骨組みを作るフェーズですね。

理由はシンプルで、ここが一番「ゼロから考える」負荷が高いからです。デザインやグラフはテンプレートやツールで効率化しやすいのですが、構成だけは毎回ゼロベースで考える必要があります。しかも、構成がズレると後工程がすべてやり直しになるため、本来は一番時間をかけるべき工程です。それなのに時間がないと雑になりがちという、構造的な矛盾を抱えています。

実際のプロンプト例:提案資料の構成案

クライアント案件で実際に使っているプロンプトの一例を紹介します。

あなたはBtoBマーケティングの提案資料を作成するコンサルタントです。
以下の条件で、15枚前後のスライド構成案を作成してください。

■ 目的:既存クライアントへのアップセル提案
■ 提案内容:SEO対策に加えて、AI検索(AIO)対応のコンテンツリニューアル
■ 聴衆:マーケティング部長+経営企画(決裁者は経営企画)
■ 前提:SEO対策は1年間実施済み。オーガニック流入は前年比140%に伸長
■ 課題:AI検索(ChatGPT、Geminiなど)経由の流入が増えており、従来のSEOだけでは取りこぼしが発生している
■ 予算感:月額50〜80万円の追加投資を想定

各スライドについて以下を出力してください:
- スライド番号とタイトル
- そのスライドで伝えるべきメッセージ(1文)
- 掲載する要素(テキスト、グラフ、図解など)
- 想定する聴衆の心理状態の変化

ポイントは「聴衆の心理状態の変化」を入れているところです。これを入れるだけで、AIの出力するストーリーラインの質が明確に変わります。「ふーん、で?」から「なるほど、それは問題だ」「で、どうすればいいのか」「それなら検討してみよう」という流れを、AIが意識してくれるようになります。

もう1つ、「決裁者は経営企画」と明記しているのも重要です。提案資料は「プレゼンする相手」と「決裁する人」が違うケースが多くあります。この情報があるだけで、AIは「マーケ部長が社内で上申しやすい材料」を意識した構成を出してきます。

構成案が出たあとのフロー

AIが出してきた構成案を、そのまま使うことはまずありません。

7〜8割は使える線まで来ていますが、残りの2〜3割は修正が必要になります。よくあるパターンは次のようなものです。

  • 前置きが長い。AIは丁寧に背景を説明しがちで、スライド3〜4枚分も「業界の現状」に使っていることがあります。聴衆がすでに知っていることは省略すべきなので、ここはバッサリ切ります。
  • 「弊社の強み」を入れたがる。テンプレート的な提案構成に引っ張られるのだと思いますが、アップセルの場合、相手はすでにこちらのことを知っているので不要です。
  • 数字の入れ方が甘い。「コンテンツリニューアルにより流入増が期待できます」といった曖昧なスライドが出てくることがあります。これは「前年比140%→200%を目指す」のように、具体的な数値目標に差し替えます。

この修正プロセスを経て構成案を確定させるのに30分ほど。以前はこの工程だけで2〜3時間かけていたので、ここだけでも大幅な短縮です。

構成が固まったら、各スライドのテキスト原稿をAIに書かせます。ここでも全スライドを一気に頼むのではなく、3〜4枚ずつ「この構成案のスライド5〜8のテキスト原稿を書いて」と分けて依頼するほうが品質は安定します。一度に長い出力を求めると、後半になるほど雑になる傾向があるためです。

Microsoft Copilotとの使い分け

Microsoft 365 Copilot(月額4,497円/ユーザー)を使えば、PowerPoint内で直接AIにスライドを生成させることもできます。「このWordドキュメントからプレゼンテーションを作成して」と指示すれば、Wordの内容をベースにスライドを自動生成してくれます。

ただ、Copilotで直接生成されるスライドは、たたき台としては使えるものの、そのまま使えるレベルではないというのが2026年3月時点の評価です。デザインテンプレートの適用は便利ですが、ストーリーラインの設計はClaudeのほうが上だと感じています。McKinseyの2024年の調査でも、生成AIの導入で資料作成の時間を最大30%削減できるという結果が出ていますが、これは「AIの出力をそのまま使う」前提ではなく、「AIをアシスタントとして使う」前提の数字です。

実務フローとしては、構成案とテキスト原稿をClaudeで作り、PowerPointに流し込むのは手動。デザインが必要な場合は、Canvaやイルシル(日本語のスライド自動生成ツール)でテンプレートを適用する、という組み合わせが今のところ一番しっくりきています。

Word:提案書とレポートの初稿を任せる

パワポの話が長くなりましたが、Wordについても触れておきます。ここは手短にいきます。理由は、パワポとやっていることの本質が同じだからです。

Wordをよく使うのは、クライアントへの分析レポートと、補助金申請の事業計画書です。

分析レポートの場合、GA(Google Analytics)やSearch Consoleのデータをエクスポートして、Claudeに読み込ませた上で「前月比の変動が大きい指標を3つ挙げて、それぞれの要因仮説を100字以内で書いて」のように頼みます。データの解釈と文章化をAIに任せることで、数字を眺めて考え込む時間が大幅に減ります。

ただし、ここで気をつけているのは、AIの出す「仮説」をそのまま採用しないことです。AIは数字の変動パターンからもっともらしい仮説を出してきますが、現場の文脈を知りません。たとえば「直帰率が上昇した」に対してAIは「ページの読み込み速度の低下が原因と考えられます」と言ってくるかもしれませんが、実際には先月リニューアルしたヘッダーのUI変更が原因だった、ということもよくあります。

AIの仮説は「検討のたたき台」として使い、最終的な因果の判断は人間が行う。このスタンスを崩さないことが大事です。

補助金申請書での活用

もう少しニッチな話ですが、補助金の事業計画書作成にもAIはかなり使えます。

事業再構築補助金やIT導入補助金の申請書は、「自社の現状」「課題」「解決策」「事業効果」を決まったフォーマットで書く必要があります。この構造化された文章を書くのはAIの得意分野です。

以下の情報をもとに、IT導入補助金の事業計画書セクション「導入による生産性向上の見込み」を800字で作成してください。

■ 業種:飲食業(居酒屋3店舗)
■ 従業員数:正社員8名、アルバイト22名
■ 導入ツール:予約管理・顧客管理SaaS
■ 現状の課題:電話予約の取りこぼし(月間推定30件)、顧客情報が紙ベースで分析不可
■ 期待効果:予約自動化による取りこぼし削減、リピーター分析によるLTV向上

このようなプロンプトで初稿を作らせると、おおむね15分で800字の文章が出てきます。手書きだと1〜2時間はかかるところです。もちろん、数値の根拠や具体性はあとから人間が調整しますが、「白紙の画面と向き合う」ストレスがなくなるだけで作業効率はまるで違います。

中小企業庁の2024年度の集計によると、IT導入補助金の申請件数は約14万件で、採択率は約50〜60%。半分近くが不採択になっています。不採択の理由の多くは「事業計画の具体性不足」「数値根拠が弱い」です。AIで初稿を素早く作り、浮いた時間を数値の精査と根拠の補強に充てる。このアプローチは、採択率を上げるという意味でも合理的だと考えています。

Excel:関数とデータ整理を聞く

最後にExcelです。これは3つの中で一番シンプルな話です。

ExcelでAIを活用する場面は、大きく分けて2つあります。

1つ目は、関数を書いてもらうことです。

VLOOKUPやINDEX-MATCH、複雑なIF文のネスト。Excelの関数は、やりたいことは分かっているのに書き方が思い出せない、ということが頻繁にあります。以前はGoogle検索で調べていた時間を、今はAIに聞くだけで済ませられます。

A列に商品名、B列に売上金額、C列にカテゴリが入ったデータがあります。
カテゴリが「飲料」のものだけを抽出して、売上金額の合計を出すSUMIFS関数を書いてください。

この程度なら数秒で答えが返ってきます。=SUMIFS(B:B,C:C,"飲料") と書けばいいだけですが、条件が3つ4つになったり、日付範囲の指定が絡んだりすると、関数を思い出すより聞いたほうが速くなります。

Microsoft CopilotがExcelに組み込まれている環境なら、セル上で直接自然言語で指示できます。Copilotを契約していなくても、ブラウザでClaude(claude.ai)を開いて聞けば同じことができます。

2つ目は、データの前処理です。

クライアントから「このExcelのデータを使って分析してほしい」と渡されるファイル。列名が日本語だったり英語だったり、日付のフォーマットがバラバラだったり、空白行が混じっていたり。この「整っていないデータをきれいにする」作業は、地味に時間がかかります。

ここでもAIに「このデータの問題点を洗い出して、クリーニングの手順を教えて」と聞くと、「B列の日付フォーマットが混在しています(YYYY/MM/DDとMM/DD/YYYYが混在)。TEXT関数で統一できます」のように具体的な指示をくれます。

Gartner社の2024年の報告によれば、データサイエンティストの業務時間の約60%がデータの収集と前処理に費やされているとされています。データ分析の専門家ですらそうなのですから、非エンジニアがExcelのデータ整理に苦労するのは当然です。ここをAIで短縮できるのは実務上かなり大きいです。

丸投げが失敗する理由

ここまで読んで「では全部AIに任せればいいのでは」と思った方もいるかもしれません。ただ、それはうまくいきません。

理由を2つ挙げます。

1つ目。AIは「なぜこの資料を作るのか」を理解していません。

パワポの構成案をAIに出させるとき、「聴衆の心理状態の変化」や「決裁者は誰か」を明記するのは、AIがそこを自力では判断できないからです。AIはプロンプトに書かれた情報からしか推論できません。クライアントの社内政治や、前回の打ち合わせでの微妙な温度感といった「行間」は人間にしか読めません。

同じことは、IPA(情報処理推進機構)の2024年の「DX白書」でも指摘されていて、AIを活用する際には「業務プロセスの理解とAIの出力を評価するスキル」が人間側に求められると述べられています。

2つ目。精度の問題です。

生成AIは、ときどきもっともらしい誤りを出力します(いわゆるハルシネーション)。統計データの引用を間違えたり、存在しない調査結果を作り出したりすることがあります。資料に載せる数字やファクトは、必ず一次ソースを確認する必要があります。AIが作った下書きをそのまま提出して、「この数字の出典は?」と聞かれて答えられない。これは避けたいパターンです。

そのため、実務フローでは「AIが作る→人間が直す→人間がファクトチェックする」の3ステップを必ず踏みます。AIの役割は「ゼロから1を作る」部分の加速であって、「1を10にする」部分と「品質を担保する」部分は人間の仕事です。

実務フローを整理する

最後に、あるプロジェクトで実際に回している資料作成のワークフローを整理しておきます。

ステップ1:目的と条件の整理(人間)。誰に、何のために、どのレベルの資料が必要かを整理する。5分ほど。

ステップ2:構成案の生成(AI)。整理した条件をプロンプトに落とし込み、構成案を生成する。5〜10分。

ステップ3:構成の修正と確定(人間)。AIの構成案をレビューし、不要なスライドの削除、順番の入れ替え、メッセージの修正を行う。20〜30分。

ステップ4:テキスト原稿の生成(AI)。確定した構成に基づいて、各セクションのテキスト原稿を生成する。15〜20分。

ステップ5:原稿の修正とファクトチェック(人間)。AIが書いたテキストの修正、トーンの調整、数値の一次ソース確認。30〜60分。

ステップ6:デザインと仕上げ(人間+ツール)。PowerPointやCanvaでレイアウト。グラフの作成。最終調整。60〜90分。

合計で3〜4時間。以前は丸1〜2日かかっていたことを考えると、時間は半分以下になります。

ただ、これはあくまで「慣れた状態」の数字です。最初からこの速度が出るわけではなく、プロンプトの書き方を試行錯誤する期間が2〜3ヶ月ありました。どういうプロンプトを書けば期待する出力が返ってくるか。この感覚を掴むまでには、ある程度の練習量が必要になります。

自分の業務にどう当てはめるか

ここで紹介したのは、あくまで受託業務での使い方です。

パワポの構成案作成が一番効くと書きましたが、これは「クライアント向けの提案資料を頻繁に作る」という業務特性があってのことです。社内向けの定例報告がメインの方であれば、Wordのレポート自動化のほうがインパクトは大きいかもしれません。経理や管理部門であれば、Excelの関数生成とデータ整理が最優先になるでしょう。

大事なのは、「自分の業務のどの工程に一番時間がかかっているか」を把握して、そこにAIを当てることです。汎用的な「AIの使い方」を学ぶよりも、自分の業務プロセスを棚卸しするほうが先になります。

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参考文献