先日、BtoB向けのSaaS企業の担当者と打ち合わせをしていて、こんな話になりました。「うちのサイト、月5万セッションあるのですが、問い合わせが月8件しか来ないんです。どこが詰まっているのか全然わからなくて」と。

マーケティングファネルは、こうした「どこで漏れているのか」を構造的に把握するためのフレームワークです。見込み客が「知らない状態」から「購入・契約」に至るまでのプロセスを段階に分け、各段階の人数や転換率を可視化することで、改善すべきボトルネックを見つけられます。サイトへの流入は十分あるのに成果につながらない、という状況を診断するのに有効です。

マーケティング界隈では数年前から「ファネルは死んだ」という議論があります。顧客の行動が直線的でなくなった、SNSの口コミで一気にスキップされる、サブスクリプションモデルでは購入後のほうが大事だ、といった指摘です。理屈としてはもっともだと思います。ただ、BtoB企業のマーケティング支援を続けてきた立場から言うと、ファネルはまだ十分に使えます。使い方を間違えなければ、という条件つきですが。

この記事では、マーケティングファネルの基本構造から、各段階で何をすべきか、BtoBとBtoCでの設計の違い、そして近年注目されるフライホイールモデルとの関係まで、実務に寄せて解説します。

マーケティングファネルの基本構造

マーケティングファネルは、見込み客が「知らない状態」から「購入・契約」に至るまでのプロセスを、逆三角形(漏斗=ファネル)の形で可視化したモデルです。上が広く、下に行くほど狭くなる。これは各段階で人数が減っていくことを表しています。

一般的には、以下の3層で整理されます。

TOFU(Top of Funnel)は認知・興味の段階です。まだ自社のことを知らない、あるいは知っていても興味を持っていない潜在層を指します。母数が最も大きい層です。

MOFU(Middle of Funnel)は比較・検討の段階です。自社の存在を認知し、課題の解決策として検討し始めている層で、情報収集を積極的に行っている段階です。

BOFU(Bottom of Funnel)は意思決定・購入の段階です。具体的な導入・購入を検討しており、最終的な判断材料を求めている層を指します。人数は最も少ないですが、CVに最も近い層です。

この3層モデル自体は、マーケティングの教科書で目にしたことがある方も多いでしょう。E. St. Elmo Lewisが1898年に提唱したAIDAモデル(Attention→Interest→Desire→Action)が原型とされ、100年以上にわたって形を変えながら使われ続けています。

ただし、この「3層に分けて整理する」だけなら、誰でもできます。重要なのはその先で、各段階で「何をするか」「何を測るか」を具体的に設計することです。

「ファネルは死んだ」論に対する実務者の見解

本題に入る前に、この議論は避けて通れないので整理しておきます。

「ファネルは死んだ」と主張する根拠は主に3つあります。

1つ目は、顧客の行動が直線的でないこと。現実の見込み客は、認知→検討→購入と順番に進むわけではなく、行ったり来たりします。SNSで知って、一度離脱し、3か月後に検索で再訪し、口コミを見てから問い合わせる、といった複雑な動きをします。

2つ目は、購入後のプロセスが重要になったこと。SaaSに代表されるサブスクリプションモデルでは、契約した瞬間がゴールではなく、その後の継続利用・アップセル・紹介が収益の柱になります。購入で「完了」するファネルでは、この部分をカバーできません。

3つ目は、コミュニティや口コミの影響が大きくなったこと。既存顧客の推奨がそのまま新規顧客の認知になるため、ファネルの「上から下」という一方向の流れでは現実を説明しきれません。

これらの指摘は正しいと思います。ただし、「だからファネルは使えない」という結論には同意しません。

ファネルの本質的な価値は「顧客の行動を直線的に予測すること」ではなく、自社のマーケティング施策を段階別に整理し、どこにボトルネックがあるかを発見することにあります。

冒頭で紹介したSaaS企業の例で言えば、「月5万セッションあるのに問い合わせ8件」という事実を、ファネルで分解するとこうなります。

  • TOFU:月5万セッション(ここは問題ない)
  • MOFU:サービスページの閲覧が月800セッション(ここで大量に脱落している)
  • BOFU:問い合わせフォーム到達が月120、送信完了が8件(フォームのCVRは6.7%で悪くない)

つまり問題は「TOFUからMOFUへの移行」にあります。サイトに来てはいるけれど、サービスへの興味喚起ができておらず、記事を読んで終わっている。これがわかれば、やるべきことが見えてきます。記事内にサービスページへの導線を入れる、ホワイトペーパーのDLでリードを獲得する、といった具体的な打ち手です。

ファネルを「予測モデル」として使うと破綻しますが、「診断ツール」として使う分には、2026年の今でも十分に機能します。実際、Gartnerの調査では、BtoBマーケターの約75%がファネルベースのフレームワークを何らかの形で使い続けていると報告されています。

完全なファネルの代替として語られることが多い「フライホイールモデル」との関係については、記事の後半で触れます。

TOFU(認知段階)の施策とKPI

ファネルの最上部、TOFU(Top of Funnel)の目的は「まだ自社を知らない人に存在を知ってもらうこと」です。ここの母数が小さいと、その後のすべてが先細りします。

TOFUの主な施策

1つはSEOコンテンツ(ブログ記事・コラム)です。見込み客が検索するであろうキーワードに対して、役立つ情報を提供する記事を公開します。BtoBの場合、「○○とは」「○○ やり方」「○○ 比較」といった情報収集系のキーワードがTOFUの主戦場です。

実際にこの記事自体が「マーケティングファネル とは」というキーワードを狙っており、まさにTOFU施策の一つです。デジタルマーケティング全体の戦略設計についてはこちらの記事で詳しく書いています。

もう1つはSNS発信・広告です。BtoCでは特に有効ですが、BtoBでもXやLinkedInでの専門家としての発信は認知獲得に貢献します。広告ならGoogleのディスプレイ広告やMeta広告が、検索行動を起こしていない潜在層へのリーチ手段として有効です。

TOFUで見るべきKPI

KPI計測ツール目安
Webサイトセッション数GA前月比で増加傾向か
オーガニック検索流入数Search Console主要キーワードの順位推移
SNSインプレッション数各プラットフォームリーチの広がり
新規ユーザー率GA60〜80%が目安

TOFUの段階で犯しがちなミスは、いきなり「問い合わせ」をゴールにすることです。まだ自社のことを知ったばかりの人に「無料相談はこちら」と迫っても、反応率は低くなります。この段階では「知ってもらう」「役立つと思ってもらう」だけで十分です。焦ってBOFU的なCTAを出すと、ユーザー体験を損ねてしまいます。

MOFU(比較検討段階)で見込み客を顧客候補に育てる

MOFUはファネルの中間層で、自社のことをすでに認知しており、課題の解決策を比較検討している段階です。BtoBではこの段階が特に長くなる傾向があります。

Forrester Researchの調査によると、BtoBの購買担当者は営業と接触する前に、購買プロセスの約67%をオンラインの情報収集で完了しているとされています。つまり、MOFUの段階でどれだけ有益な情報を提供できるかが、商談の質と量を大きく左右します。

MOFUの主な施策

ホワイトペーパー・eBookは、BtoBのMOFU施策の定番です。ブログ記事よりも深い情報を、PDFなどのダウンロード可能な形式で提供します。ダウンロード時にメールアドレスを取得することで、リードとして把握できるようになります。

ここで大事なのは、ホワイトペーパーの内容が「本当に役立つもの」であることです。「ダウンロードしたけれど中身が薄い営業資料だった」という体験は、ブランドへの信頼を一気に下げてしまいます。

事例紹介・ケーススタディも有効です。「同じ業界の企業がどう活用しているか」は、比較検討段階の見込み客にとって最も説得力のあるコンテンツの一つです。数字(導入前後の変化)を含めた事例は特に効果が高くなります。

メールナーチャリングは、TOFUで獲得したメールアドレスに対して、段階的に情報を提供し、購買意欲を高めていくプロセスです。HubSpotの調査によると、リードナーチャリングを行った企業は行っていない企業と比較して、50%多くの商談機会を33%低いコストで生み出しているとされています。

ウェビナー・比較コンテンツも橋渡しになります。オンラインセミナーは参加者リストを営業に引き継げるため、BOFU施策への橋渡しになります。また「○○ vs ○○」形式の比較記事は、検討段階の見込み客にとってニーズが高い。ただし公正な視点で書くことが信頼の前提です。

MOFUで見るべきKPI

KPI計測ツール目安
資料DL数 / リード獲得数MA / CRM月次で増加傾向か
メール開封率メール配信ツールBtoBは20〜30%が平均
サービスページ閲覧数GATOFUからの遷移率
ウェビナー参加者数ウェビナーツール申込→参加率60%以上

MOFUでありがちな失敗は、リードを獲得したのに何もフォローしないことです。ホワイトペーパーをダウンロードした人に対して、1週間以内にフォローメールを送っているでしょうか。ウェビナー参加者にお礼のメールと追加情報を届けているでしょうか。リードを取っただけで放置すると、せっかく温まった関心が冷めてしまいます。

BOFU(意思決定段階)の最後の一押しと受注

BOFUはファネルの最下部で、具体的に導入・購入を検討している段階です。人数は最も少ないですが、CVに最も近い。ここでの施策は「あと一歩の不安を解消すること」に集中します。

BOFUの主な施策

無料トライアル・デモは、SaaS企業であれば最もCVRの高い施策です。Totango社の調査では、フリートライアルの有料転換率は平均で約15〜25%とされています。

個別相談・見積もりも決め手になります。BtoBのサービス業では、個別の課題に対する提案が意思決定の決め手になります。「30分のオンライン相談」のように時間を区切ると申し込みハードルが下がります。

導入事例の詳細版と価格情報も重要です。MOFUの事例紹介よりさらに具体的なROI計算方法や社内稟議用の材料を提供します。BtoBでは、担当者が「社内を説得するための武器」を求めています。また価格の目安を掲載するだけでも問い合わせのハードルは大きく下がります。

BOFUで見るべきKPI

KPI計測ツール目安
問い合わせ数 / 商談数CRM前月比で増加傾向か
問い合わせフォームCVRGA3〜8%が目安(BtoB)
商談→受注率CRM20〜30%(BtoB平均)
リードタイムCRM業界平均との比較

BtoBとBtoCのファネル設計の違い

ここまで主にBtoB寄りの話をしてきましたが、BtoCとの違いを整理しておきます。ファネルの基本構造は同じでも、中身の設計がかなり変わります。

最大の違いは検討期間と意思決定者の数です。

BtoBでは初回接触から成約まで数週間〜数か月かかり、高額商材では半年以上も珍しくありません。MOFUのナーチャリングが極めて重要です。さらにGartnerのデータでは、BtoBの購買に関わる関係者は平均6〜10人とされています。つまりBOFU施策は「1人を説得する」のではなく、「担当者が社内を説得するための武器を渡す」設計が必要です。

BtoCでは意思決定者は基本1人で、即決されるカテゴリも多い。感情的な訴求やレビュー、期間限定オファーが効きやすく、MOFUを飛ばしてTOFU→BOFUを直結させるケースもあります。

コンテンツの性質の違い

段階BtoBBtoC
TOFU業界課題に関する解説記事、調査レポートSNS投稿、動画コンテンツ、ブランドストーリー
MOFUホワイトペーパー、ウェビナー、事例商品比較、レビュー、体験レポート
BOFUデモ、ROI試算、セキュリティ資料クーポン、送料無料、期間限定オファー

この違いを無視して、BtoCの手法をそのままBtoBに持ち込むと空振りします。逆もまた同じです。自社のビジネスモデルに合ったファネル設計が必要です。

各段階のコンテンツを、何をどの順番で作るか

「各段階で施策が必要なのはわかった。でも全部同時には作れない」。これはクライアントから毎回言われることです。

結論から言うと、BOFUから逆順で作ることを推奨します。

理由はシンプルで、BOFUのコンテンツがない状態でTOFUに投資しても、流入だけ増えて成果に結びつかないからです。まずは受け皿(サービスページ、問い合わせフォーム、事例ページ)を整え、次にMOFU(ホワイトペーパー、メール配信)、最後にTOFU(ブログ記事、SNS、広告)の順番で拡充します。

具体的な優先順位はこうです。

フェーズ1(1〜2か月目)はBOFUの受け皿整備です。サービスページの見直し(ベネフィット、料金、よくある質問)、問い合わせフォームの最適化(項目数の削減、確認画面の廃止検討)、導入事例を最低2〜3本作成します。

フェーズ2(2〜4か月目)はMOFUのリード獲得基盤です。ホワイトペーパーを1〜2本作成し、メール配信の仕組みを構築(MAツールの導入検討)、ウェビナーの企画(四半期に1回程度)を進めます。

フェーズ3(3か月目〜継続)はTOFUの母数拡大です。SEOコンテンツの定期公開(月4〜8本)、SNS運用の開始、広告の検討(予算に応じて)を行います。

このフェーズ分けが重要なのは、限られたリソースを「今やるべきこと」に集中させるためです。よくある失敗は、最初からブログ記事を月10本書こうとして、肝心のサービスページがスカスカのまま放置されているケースです。流入が増えても「で、何をしてくれる会社なの?」が伝わらないサイトでは、CVは増えません。

ファネルのKPI設計で「漏れ」を数字で見つける

ファネルの最大の実務的価値は、どの段階で見込み客が離脱しているかを数値で把握できることです。

以下は、BtoB企業の標準的なファネルKPIの設計例です。

段階指標計算式ベンチマーク
TOFU→MOFUリード転換率リード獲得数 / サイトセッション数1〜3%
MOFU→BOFUMQL→SQL転換率商談化リード数 / 全リード数10〜30%
BOFU→成約受注率受注数 / 商談数20〜30%

例えば、月間セッションが10,000で、リード転換率が1%なら月間リードは100件。そこからMQL→SQL転換率が20%で商談が20件、受注率が25%で月5件の受注となります。

この数字を並べたときに、「リード転換率が0.3%しかない」とわかれば、問題はTOFU→MOFUの導線にあります。「MQL→SQL転換率が5%しかない」なら、ナーチャリングの質か、そもそもリードの質が低い可能性があります。このように、ボトルネックの場所が具体的に特定できるのがファネルKPIの強みです。

Content Marketing Instituteの「B2B Content Marketing 2025」レポートによると、コンテンツマーケティングで成果を出しているBtoB企業の81%がファネル段階別のKPIを設定しており、成果が出ていない企業では36%にとどまるとされています。

KPIを設定するだけでなく、月次でレビューすることが肝心です。ダッシュボードを作って眺めるだけで終わっている企業が少なくありません。数字を見て「だから何をするか」まで決めるのがKPIレビューです。

フライホイールモデルとの対比

ファネルの限界を補完するモデルとして、HubSpotが2018年に提唱したフライホイールモデルがあります。

ファネルは「認知→検討→購入」で終わりますが、フライホイールは「購入後の顧客体験→推奨→新規認知」という循環構造を描きます。既存顧客の満足が口コミを生み、新規獲得につながるという考え方です。

この2つは対立するものではありません。ファネルは新規獲得プロセスの管理ツール、フライホイールは顧客起点の成長エンジン。カバーしている範囲が違うだけです。実務では、新規獲得はファネルで管理し、受注後は「オンボーディング→活用支援→アップセル→推奨」のフライホイールに乗せる。推奨がTOFUの母数を押し上げ、ファネルの入口が広がる。この組み合わせが、特にBtoB SaaS企業では主流になりつつあります。

自社用のファネルを作る4ステップ

自社のファネルを設計する手順は4つです。

ステップ1は、現状のデータを集めることです。GA、Search Console、CRM(なければExcelの顧客リスト)から、月間サイトセッション数(TOFU)、リード獲得数(MOFU)、商談数(BOFU)、受注数(成約)を出します。この4つの数字があれば、各段階の転換率が計算できます。

ステップ2は、ボトルネックを特定することです。4つの数字を先述のベンチマークと比較します。パターンAはTOFUが弱い(流入自体が少ないので、SEOか広告で母数拡大が必要。デジタルマーケティング戦略の記事のチャネル選定が参考になります)。パターンBはTOFU→MOFUの転換が弱い(流入はあるのにリードが取れないので、CTAや導線設計の問題)。パターンCはMOFU→BOFUが弱い(リードはあるのに商談化しないので、ナーチャリングの質かリードの質の問題)。

ステップ3は、1つの段階に集中して改善することです。全段階を同時にいじるとリソースが分散します。たとえばパターンBなら、記事内CTAの配置見直し、ホワイトペーパーのタイトルA/Bテストなど、2〜3か月集中して取り組みます。

ステップ4は、月次で改善サイクルを回すことです。ファネルKPIを毎月レビューし、改善が確認できたら次のボトルネックに移る。確認できなければ施策を変える。地味ですが、これを6か月続けた企業と続けなかった企業では成果に歴然とした差が出ます。

よくある質問

ファネルの段階は3段階でいいのかという質問をよく受けます。まず3段階(TOFU / MOFU / BOFU)で始めることをおすすめします。中小企業のリソースでは、段階を細かくしすぎるとKPI管理が追いつきません。運用しながら必要に応じて分割するアプローチが現実的です。

小規模企業でMAツールは必要かという質問もあります。月間リードが50件を超えるあたりから検討で十分です。それ未満ならメール配信ツール+Excelのリスト管理で回せます。

ファネルの数字を経営者にどう報告するかという質問もあります。「資料DL 30件→商談8件→受注2件、受注単価200万円で売上貢献400万円」のように、最終的な売上に換算して報告するのが効果的です。

弊社へのご相談

マーケティングファネルは、自社のマーケティング施策を構造的に整理し、ボトルネックを見つけるための実務ツールです。「どこに投資すれば最も効率よく成果が出るか」を判断する根拠になります。

ただ、ファネルを設計して終わりではありません。各段階のコンテンツを作り、KPIを設定し、月次でレビューして改善し続ける。この実行の部分が最も手間がかかり、最も差がつくところです。

株式会社ティーラが提供するCVアップパートナーズでは、BtoB企業を中心にマーケティングファネルの設計から実行支援までをお手伝いしています。「どこがボトルネックかわからない」「施策のアイデアはあるが実行が追いつかない」という段階でもご相談いただけます。まずは現状分析と改善の方向性をまとめた無料の資料をご用意していますので、資料ダウンロードはこちらからお気軽にどうぞ。


参考文献