「来期の広告予算、15%カットになりました。でもCV目標は据え置きです。」
昨年の12月、BtoB向けの人材サービスを展開しているクライアントから、こんな連絡が来ました。無理な話に聞こえるかもしれません。広告費を削ってCVを維持するだけでも難しいのに、目標は変えない。ただ、この手の相談は年々増えています。
結論から言うと、この会社は広告費を20%削減しながら、CVを月42件から月51件に増やしました。期間は4か月、追加の広告予算はゼロです。実施したのは既存サイトの改善だけでした。
この記事では、その考え方を解説します。広告費を「増やす」以外の選択肢として、サイト改善がどれだけ合理的かを、数字と事例で見ていきます。
広告のクリック単価が上がり続ける理由
広告費が高くなった実感はあっても、どれくらい上がっているかを正確に把握している担当者は意外と少ない印象です。
WordStreamが16,000以上のGoogle広告キャンペーンを分析した2025年のベンチマークレポートによると、Google検索広告の平均CPC(クリック単価)は5.26ドル。前年比で12.88%の上昇です。しかも5年連続で上がり続けています。
日本のデータも見ておきます。電通が2026年3月に発表した「2025年 日本の広告費」では、インターネット広告費が4兆459億円(前年比110.8%)に達し、総広告費に占める構成比が初めて50%を超えました。広告費の半分以上がインターネットに投じられている状況です。これだけ資金が流入すれば、入札競争が激化するのは必然と言えます。
なぜCPCは上がり続けるのでしょうか。「競合が増えたから」という説明は正しいのですが、それだけでは足りません。構造的な要因が3つあります。
1つ目は、オークション構造そのものです。Google広告はリアルタイムの入札オークションのため、同じキーワードに出稿する企業が増えれば単価は上がります。コロナ以降、オンラインでの顧客獲得に本格シフトした企業が急増し、ほぼ全業種でキーワードの入札競争が激しくなりました。
2つ目は、スマート入札の普及です。Googleの自動入札(Performance Max、Target CPAなど)は便利ですが、アルゴリズムはCV獲得の確率を最大化する方向に動くため、入札額を引き上げる方向にバイアスがあります。WordStreamのレポートでも、スマート入札を使っているキャンペーンのほうがCPC上昇幅が大きいことが指摘されています。
3つ目は、ゼロクリック検索の増加です。GoogleのAI Overview(検索結果上部に表示されるAI要約)が普及し、ユーザーが広告をクリックせずに情報を得るケースが増えています。クリック総量が減る中で入札者は増える。需要と供給の不均衡が加速しています。
ferret Oneが330社のBtoB企業を対象に実施した2025年の実態調査でも、広告運用担当者が抱える2大課題として「CPA高騰」と「効果測定の難しさ」が挙がっています。ROIに「改善の余地あり」と回答した企業は約半数で、効果に満足している企業は1割強にとどまっています。
要するに、広告のCPCは構造的に上がり続ける仕組みになっています。来月予算を増やして一時的にCVを戻しても、3か月後にはまた同じ問題にぶつかる可能性が高いです。
広告を増やすのと、サイトを直すのでは「効き方」が違う
ここから本題に入ります。
同じ「CVを増やす」でも、広告費を増やす方法とサイトのCVRを上げる方法では、コスト構造がまるで違います。数字で比較すると、その差は歴然です。
仮に今のサイトが「月8,000セッション、CVR 1.0%、月80件のCV」だとして、CVを120件に増やしたいとします。
方法Aは、広告費を1.5倍にして流入を12,000セッションにする。CVR 1.0%のままで月120件のCVになりますが、広告費は毎月1.5倍のままかかり続けます。
方法Bは、サイトを改善してCVRを1.5%にする。流入8,000のままで月120件のCVになり、かかるのは改善の初期費用のみです。
結果はどちらも120件です。ただ方法Aは来月も再来月もコストが膨らみ続けます。方法Bは一度実装すれば効果が残ります。フォームの入力項目を減らした、CTAの文言を変えた、ファーストビューの訴求を改善した。これらは翌月にリセットされたりしません。
さらに重要なのは、CVRが上がった状態で広告を回すと、CPAが自動的に下がるという点です。
CVR 1.0%でCPC 300円のとき、CPA(1件獲得あたりのコスト)は30,000円。CVRが1.5%に改善すれば、同じCPC 300円でもCPAは20,000円に下がります。広告費を1円も変えなくても、1件あたりの獲得効率が33%改善する計算です。
もう少し踏み込んだシミュレーションをしてみます。
| 指標 | 現状 | 広告増額(方法A) | サイト改善(方法B) |
|---|---|---|---|
| 月間セッション | 8,000 | 12,000 | 8,000 |
| CVR | 1.0% | 1.0% | 1.5% |
| 月間CV | 80件 | 120件 | 120件 |
| CPC | 300円 | 300円 | 300円 |
| 月間広告費 | 240万円 | 360万円 | 240万円 |
| CPA | 30,000円 | 30,000円 | 20,000円 |
| 年間追加コスト | — | +1,440万円 | 改善費用のみ(数十万〜) |
年間で見ると、方法Aは追加で1,440万円。方法Bは改善の初期投資が数十万〜100万円程度で、以降はランニングコストがかかりません。しかもCVRの改善は、広告経由だけでなくSEO経由や直接流入の訪問者にも効きます。
このシミュレーションを見せると「CVRを1.5倍にするのは本当にできるのか」と聞かれることがあります。もちろん、すべてのサイトで保証はできません。ただ、これまでサイト改善に本格的に取り組んでこなかったサイトほど、伸びしろは大きいです。フォームの項目を減らすだけでCVRが1.5倍になるケースは、後半の事例で触れます。
CROの投資対効果を示すデータ
感覚論ではなく、CRO(Conversion Rate Optimization=コンバージョン率最適化)のROIに関するデータを確認します。
VentureBeatが3,000社を対象に行った調査では、CROに取り組んだ企業の平均ROIは223%。投資額の2倍以上のリターンが出ている計算です。ROIがゼロだった企業は全体のわずか5%で、173社がROI 1,000%超を報告しています。
にもかかわらず、CROへの投資は驚くほど少ないのが実情です。同調査によると、新規顧客獲得に92ドルかけている企業がCRO(コンバージョン改善)にかけている費用はわずか1ドル。獲得予算の約1%しかCROに回されていません。
First Page Sageの2025年のCRO統計レポートでは、フォーム項目を7つから3つに減らすとCVRが20〜35%向上し、CTAが1つのランディングページは複数CTAのページより32%高いCVRを示すとされています。
これらの数字が示しているのは、大半の企業がサイト改善という領域にまだほとんど手をつけていないということです。裏を返せば、始めたときの改善幅が大きいとも言えます。
事例1:BtoB人材サービス(フォーム改善とファーストビュー変更)
冒頭で触れたBtoB人材サービスの会社の話を、もう少し詳しく書きます。
この会社は月間広告費が約200万円。Google検索広告とMeta広告を併用していて、月間のサイト流入は約4,600セッション。CVR 0.9%で、月の問い合わせが42件前後で推移していました。
広告代理店からは「月間予算を280万円に増やせばCV60件は取れる」と言われていたそうですが、来期は全社的なコスト削減方針で広告費は160万円に減額。CV目標は42件のまま据え置きでした。
最初に行ったのは、GA(Google Analytics)とヒートマップ(Microsoft Clarity)のデータ分析です。わかったことは3つありました。
- ランディングページのファーストビューで48%が離脱していた。メインコピーが「次世代の人材ソリューション」という抽象的な訴求で、何のサービスかがわからなかった
- 問い合わせフォームの入力項目が14個あり、フォーム到達者のうち完了したのは28%だけだった
- サービスページのCTAボタンがページ最下部にしかなく、そもそもCTAまでスクロールしているユーザーが3割しかいなかった
施策は3つです。
1つ目はファーストビューのコピー変更です。「次世代の人材ソリューション」を「採用が決まるまで0円。成果報酬型の人材紹介」に変更し、サービスの具体的なメリットが3秒で伝わる文言にしました。
2つ目はフォーム項目を14個から5個に削減しました。会社名、担当者名、メールアドレス、電話番号、相談内容のフリーテキスト。部署名、役職、従業員数、業種、予算帯、検討時期、自由記述のカテゴリ選択、利用規約の個別同意。これらは初回の電話で聞けば済む情報なので、すべて削除しました。
3つ目はCTAの追加配置です。ファーストビュー直下、サービス紹介セクションの後、実績紹介の後の計3か所に中間CTAを追加し、加えてスマホ画面下部に追従CTAバーを設置しました。
結果は次のとおりです。
- CVRが0.9%から1.7%に改善(約1.9倍)
- 広告費を200万円から160万円に削減(20%減)
- 流入は4,600から約3,000セッションに減少
- それでも月間CVは42件から51件に増加
広告費を下げたので流入は減りました。ただCVRが倍近くになったことで、少ない流入でも以前より多くのCVが出る状態になりました。CPAは約47,600円から約31,400円に改善。1件あたり16,000円のコスト削減です。
営業チームからは「フォーム項目を減らしたら質の低い問い合わせが増えるのでは」と心配する声もありました。結果的にカジュアルな問い合わせは確かに増えましたが、有望リードの絶対数は以前より多くなりました。初回ヒアリングの段階で簡単な質問を加えるだけで、リードの選別は十分にできています。
事例2:製造業の部品メーカー(ページ速度とモバイル対応)
もう1件、業種が異なる事例を紹介します。
精密部品を製造しているBtoBメーカーです。月間の広告費は約80万円で、サイト流入は月2,200セッション程度。CVRは0.5%で月11件の問い合わせ。「広告を増やす余裕はないが、問い合わせを倍にしたい」という相談でした。
このサイトで最初に目についたのが、ページの表示速度です。Google PageSpeed Insightsのモバイルスコアが19点でした。主な原因は、トップページに未圧縮のPNG画像が12枚(合計18MB)貼られていたことと、使っていないWordPressプラグインが14個入っていたことです。
Googleの公開データでは、モバイルページの読み込みが1秒から3秒に増えると直帰率が32%増加し、1秒から5秒になると90%増加します。このサイトの表示時間は8秒以上かかっていたので、半分以上の訪問者がページを見る前に離脱していた可能性があります。
加えてモバイル対応も問題でした。「うちはBtoBだからPCで見られる」と思い込んでいたものの、GAを見るとモバイル比率が52%。スマホでフォームを開くと、入力欄がはみ出して横スクロールが必要な状態でした。
施策は技術的な改善が中心です。
- 画像をすべてWebP形式に変換し、適切なサイズにリサイズ(18MB → 1.2MB)
- 不要なプラグイン14個のうち11個を削除
- ブラウザキャッシュとCDNを設定
- フォームのモバイル表示を修正(入力欄の幅、フォントサイズ、ボタンの大きさ)
PageSpeed Insightsのモバイルスコアが19点から74点に改善。表示時間は8秒超から2.3秒に短縮しました。
結果は次のとおりです。
- CVRが0.5%から1.1%に改善(2.2倍)
- 広告費は80万円のまま据え置き
- 月間CVが11件から24件に増加
- モバイル経由のCVRは0.2%から0.8%に大幅改善
この事例で印象的だったのは、コンテンツもコピーもデザインも一切変えていないという点です。変えたのは表示速度とモバイルでの使い勝手だけ。サイトの「中身」ではなく「器」を直しただけで、CVが倍以上になりました。
PageSpeedスコアが20点以下のサイトは珍しくありません。特に5年以上前に作ったWordPressサイトで、プラグインが増え続けているケースは注意が必要です。
よくある「広告費の無駄遣い」3パターン
ここまでサイト改善の話を書いてきましたが、そもそも広告費の使い方自体に改善余地があるケースも多いです。サイト改善とセットで見直すと効果が大きい、よくある無駄遣いのパターンを3つ挙げます。
1つ目は、キーワードの除外設定が甘いパターンです。BtoBサービスなのに「無料」「個人」「方法」のような情報収集系のキーワードで広告費が消費されている。あるクライアントでは、月間広告費80万円のうち約22万円が、CVにつながらない検索語句に使われていました。除外キーワードの設定だけで実質的な広告効率が28%改善した計算です。
2つ目は、CVRが低いページに広告を流し続けているパターンです。ランディングページのCVRが0.3%しかないのに、「このページが公式だから」という理由でずっと広告の遷移先にしている。CVRが低いページに広告を流すのは、穴の空いたバケツに水を注ぎ続けるようなものです。
3つ目は、広告のABテストはするのにページのABテストはしないパターンです。広告文やクリエイティブのテストには熱心なのに、ランディングページは何年も同じまま。クリック後の体験を改善しなければ、いくら広告を最適化してもCPAは下がりにくいです。
この3つに心当たりがある場合、広告運用の改善とサイト改善を同時に進めることで、広告費を削減しながらCVを増やすことが十分に可能です。
改善に取り組む順番
サイト改善でCVRを上げるといっても、いきなりデザインのリニューアルに走る必要はありません。むしろ最初はリニューアル不要です。
クライアントのサイトを改善するとき、優先的に手をつける順番はある程度決まっています。
最初にやるのは、計測環境の確認です。GAのキーイベント(CV設定)が正しくできているか。フォーム完了、電話タップ、資料ダウンロードなどが計測されていないと、改善の効果を測定できません。「GAは入れているけどキーイベント設定が未完了」という企業は、意外と多い印象があります。併せてヒートマップ(Microsoft Clarityなら無料)を導入します。
次にやるのは、ボトルネックの特定です。GAでページごとのCVR差を見て、流入が多いのにCVRが低いページを洗い出す。そのページのヒートマップを見て、「どこで離脱しているか」「CTAまでスクロールしているか」「フォームのどの項目で止まっているか」を確認する。全ページを見る必要はなく、CV導線上のページだけで十分です。
そのうえで、インパクトの大きい改善から着手します。これまでの経験上、改善のインパクトが大きい順は次のようになります。
- フォーム項目の削減。効果が出る確率が最も高い。項目を半分にするだけでフォーム完了率が1.5〜2倍になることも珍しくない
- ファーストビューの訴求変更。テキストの書き換えだけで済むことが多く、コストが低い割にインパクトが大きい
- CTAの配置追加。ファーストビュー直下と追従バーの追加。実装は半日ほどで終わることが多い
- ページ表示速度の改善。画像圧縮、不要プラグイン削除。効果は全ページに波及する
この順番で3か月回すだけで、CVRが1.3〜2倍になるケースが多いです。もちろんサイトの状態によりますが、「何も改善したことがないサイト」ほど最初の伸びは大きい傾向にあります。
「自分たちでやる」は正しい判断か
ここまで読んで「広告費を増やす前にサイトを直したほうがいい」と思ってもらえたなら、この記事の目的はほぼ達成です。
次の問題は「誰がやるか」です。
自社でやれるなら、それに越したことはありません。ノウハウが社内に溜まりますし、コストも抑えられます。GAもヒートマップも無料で使えるツールがありますし、フォームの項目を減らすだけなら社内のエンジニアかWeb担当者で対応できます。
ただ、正直に書くと、「分析→仮説→施策→検証」のサイクルを毎月回し続けるのは、マーケティング担当が1〜2人の会社ではかなり厳しいです。ヒートマップの読み解き方、ABテストの統計判定、UI改善案の設計と、必要なスキルの幅が広いうえに、日々の広告運用やSEO施策と並行して回さなければなりません。分析をしている間に広告が手薄になり、広告に集中するとサイト改善が止まる。この悪循環に陥っている会社を、これまで何社も見てきました。
株式会社ティーラが提供するCVアップパートナーズは、この「分析→仮説→施策→検証」のサイクルを丸ごと引き受けるサービスです。GAとヒートマップの分析、改善の優先順位づけ、施策の実装、効果検証まで月次で回します。分析と施策は弊社で行い、貴社は「この方向でOK」「こちらを優先して」といった判断に集中してもらう形です。
広告費を増やす以外の選択肢を検討しているなら、まずは今のサイトにどれだけ改善余地があるかを知るところから始めてみてください。CVアップパートナーズのサービス資料では、改善の進め方、費用感、事例の詳細をまとめています。
参考文献
- WordStream「Google Ads Benchmarks 2025」https://www.wordstream.com/blog/2025-google-ads-benchmarks
- 電通「2025年 日本の広告費」(2026年3月5日発表)https://www.dentsu.co.jp/news/release/2026/0305-011003.html
- ferret One「BtoB広告運用の予算相場・ROI改善の正解とは?330社の実態調査レポート」(2025年)https://ferret-one.com/blog/btob-ad-survey-report-2025
- VentureBeat CRO ROI調査(VWOまとめ)https://vwo.com/conversion-rate-optimization/conversion-rate-optimization-statistics/
- First Page Sage「Conversion Rate Optimization Statistics 2025」https://firstpagesage.com/reports/conversion-rate-optimization-statistics-fc/
- Google/SOASTA「The Need for Mobile Speed」https://www.thinkwithgoogle.com/consumer-insights/consumer-trends/mobile-site-load-time-statistics/