先日、人材派遣会社のマーケティング担当者からこんな相談を受けました。「去年、外部コンサルに依頼してカスタマージャーニーマップを作ったのですが、作ったきりで誰も見ていません」と。見せてもらうと、A0用紙にびっしりと書き込まれた美しいマップでした。ペルソナの写真、感情曲線、タッチポイント、KPI。情報量は申し分ない。でも、そこから具体的に何をすべきかが読み取れない。

カスタマージャーニーマップは、顧客が自社を認知してから契約・利用定着に至るまでの体験を段階ごとに可視化し、どこにボトルネックがあるかを特定するためのフレームワークです。部門間で顧客体験の全体像を共有し、施策の優先順位を決める土台になります。ただし作り方を間違えると、冒頭のように「作って終わり」の壁紙になってしまいます。

この記事では、カスタマージャーニーマップの作り方を5つのステップで解説します。ただし「理論としての手順」ではなく、作った後に実際の施策として動かせるマップをどう作るかに焦点を当てます。BtoB・BtoCそれぞれの違い、すぐに使えるテンプレート、そして「作って終わり」にしない運用方法までカバーします。

カスタマージャーニーマップで何が変わるのか

まず、カスタマージャーニーマップを作る目的を整理します。「顧客理解を深めるため」とよく言われますが、もう少し具体的に言うと、部門間で顧客体験の全体像を共有し、施策の優先順位を決めるためです。

たとえば、BtoBのSaaS企業を考えてみてください。マーケティング部門はリード獲得に集中しています。営業は商談化率を追っている。カスタマーサクセスは解約率を気にしている。各部門がそれぞれの指標を最適化しようとするあまり、顧客が「認知から契約、利用定着まで」をどう体験しているかの全体像を誰も把握していない。マーケが大量にリードを獲っても、そのリードの質が低くて営業が疲弊する。営業が無理な値引きで受注しても、期待値のズレでカスタマーサクセスが苦しむ。

カスタマージャーニーマップは、この分断を可視化するツールです。McKinseyの調査によると、カスタマージャーニーを横断的に管理している企業は、顧客満足度が20%高く、収益成長率が15%高いとされています。

ただし、これは「作っただけ」では得られない効果です。冒頭の人材派遣会社のように、作った後に施策へ反映しなければ、マップの価値はほとんどありません。

カスタマージャーニーマップから得られる実務上のメリットを3つに絞ると、こうなります。

1つ目は、ボトルネックが見えることです。顧客がどのフェーズで離脱しているか、どこでストレスを感じているかが可視化されます。「なんとなく問い合わせが少ない」ではなく、「比較検討フェーズで競合に流れている」と特定できます。

2つ目は、施策の優先順位が決まることです。マップ上のボトルネックがわかれば、限られた予算とリソースをどこに投下すべきかが論理的に決まります。全フェーズに均等に予算を振るのではなく、インパクトが最も大きい箇所に集中できます。

3つ目は、部門間の共通言語になることです。マーケ、営業、カスタマーサクセスが「同じ顧客体験」を見ながら議論できるようになります。「うちの部門のKPIは達成している」と部分最適に陥ることを防げます。

カスタマージャーニーマップ作成の5ステップ

ここからが本題です。クライアント案件でカスタマージャーニーマップを作成するときの手順を、5つのステップで解説します。

ステップ1:ペルソナを1人に絞る

最初にやるのはペルソナ設定です。ここでの最大の注意点は、ペルソナを1人に絞ることです。

「うちのターゲットは中小企業の経営者と大企業の情報システム部門の両方です」という声はよく聞きます。ただ、1つのカスタマージャーニーマップで2つのペルソナをカバーしようとすると、どちらの体験もぼやけてしまいます。ターゲットが複数いるなら、マップも複数作ります。まずは売上への影響が最も大きいペルソナ1人から始めることをおすすめします。

ペルソナを作るときに避けたいのは、想像で属性を盛り込むことです。「35歳、男性、年収600万円、趣味はゴルフ」のような架空プロフィールを精緻に作っても、そこに顧客の購買行動に関するリアリティがなければ意味がありません。

実務で使えるペルソナに必要な情報は、次の4つだけです。

  • 業種・役職・会社規模(BtoBの場合)/ 属性・ライフステージ(BtoCの場合)
  • 抱えている課題(何に困っていて、何を解決したいのか)
  • 情報収集の方法(Google検索、SNS、業界メディア、展示会、口コミなど)
  • 意思決定の基準と関与者(誰がどんな基準で選ぶのか)

この4つは、既存顧客へのヒアリングや営業担当へのインタビューから集めるのが確実です。データが足りなければ、GA(Google Analytics)のユーザー属性データや、Search Consoleの検索クエリも参考になります。

ステップ2:フェーズを定義する

次に、顧客が自社の商品・サービスに出会い、購入(契約)し、その後の体験に至るまでのフェーズを定義します。

よく使われるのは以下のような5フェーズモデルです。

フェーズ顧客の状態
認知課題に気づく、または自社を知る
興味・情報収集解決策を探し、複数の選択肢を比較する
比較検討具体的なサービス・会社を絞り込む
購入・契約意思決定し、申込・契約する
利用・定着使い始め、継続利用する

注意してほしいのは、このフェーズ分けは「自社にとって都合の良い区分」ではなく、「顧客視点での行動の切り替わり」に基づいて定義するということです。

BtoBの場合、「比較検討」と「購入・契約」の間に「社内稟議」というフェーズが入ることが多いです。ここを見落としているマップが非常に多い。顧客の担当者が「御社にお願いしたい」と思っても、稟議で止まって失注するケースは珍しくありません。BtoBのカスタマージャーニーマップでは、この稟議フェーズを明示的に入れることをおすすめします。

ステップ3:タッチポイントを洗い出す

各フェーズで、顧客が自社とどこで接点を持つかを洗い出します。これが「タッチポイント」です。

タッチポイントの例を挙げます。

フェーズタッチポイントの例(BtoB)
認知Google検索、業界メディア記事、SNS広告、展示会
興味・情報収集自社ブログ記事、ホワイトペーパー、メルマガ、ウェビナー
比較検討サービスページ、事例紹介ページ、料金ページ、営業資料
社内稟議提案書、ROI試算シート、導入事例PDF
購入・契約見積書、契約書、オンボーディング資料
利用・定着ヘルプページ、サポート対応、定期レビュー

ここで重要なのは、タッチポイントの「量」ではなく「影響度」です。すべてのタッチポイントを平等に扱うのではなく、購買意思決定に特に強い影響を与えるタッチポイント、いわゆるMOT(Moment of Truth)を特定します。

Googleが提唱した「ZMOT(Zero Moment of Truth)」の概念によれば、BtoBの購買担当者は営業と会う前に購買プロセスの57%を完了しているとされています。つまり、Webサイトやコンテンツといったデジタルタッチポイントが、営業が接触するよりもはるかに前の段階で意思決定に影響を与えているわけです。

ステップ4:感情曲線を描く

ここからがカスタマージャーニーマップの特徴的な部分です。各フェーズ・タッチポイントにおける顧客の感情の変化を、曲線として可視化します。

感情曲線のイメージはシンプルです。横軸がフェーズ、縦軸が「ポジティブ/ニュートラル/ネガティブ」。各タッチポイントで顧客がどう感じているかをプロットしていきます。

感情
 +3 |        ★ウェビナーで
    |        「これだ」と感じる
 +2 |    ★                     ★契約完了
    |    ブログ記事で            安心感
 +1 |    共感
    |
  0 |--★---------------------------★------→ フェーズ
    | 漠然とした              利用開始直後
 -1 | 不安                    「使い方が
    |                         わからない」
 -2 |                ★
    |            料金ページが
 -3 |            わかりにくい

この感情曲線で、谷になっている箇所がボトルネックです。上の例なら「料金ページがわかりにくい」が大きなネガティブポイントで、「利用開始直後の使い方がわからない」も改善対象です。

感情曲線の情報源として最も信頼できるのは、実際の顧客インタビューです。5〜10人の既存顧客に「契約までのプロセスで、一番ストレスを感じたのはどこですか」と聞くだけで、かなりの精度でボトルネックが見えてきます。定量データとしては、GAのページ別離脱率やフォームの離脱率、NPSスコアなどが参考になります。

ステップ5:施策をマッピングする

最後のステップです。感情曲線の「谷」に対して、具体的な改善施策をマッピングします。ここが「作って終わり」にならないための最重要ステップです。

施策マッピングでは、各ボトルネックに対して「何をやるか」「誰がやるか」「いつまでにやるか」を明記します。

ボトルネック施策担当期限
料金ページがわかりにくい料金表をプラン比較形式にリニューアルマーケ + デザイン4月末
稟議フェーズで停滞社内稟議用テンプレート(ROI試算付き)を作成営業 + マーケ5月中旬
利用開始直後の迷いオンボーディングメール5通のシナリオ作成CS + マーケ5月末

施策には優先順位をつけてください。判断基準は「インパクト(改善したときの効果の大きさ)」と「実現難易度(工数・コスト)」の2軸です。インパクトが大きくて、すぐにできるものから着手する。当たり前のように聞こえますが、カスタマージャーニーマップを作ると全部のフェーズを同時に改善したくなるので、あえて「今は手をつけない」施策を決めることが大事です。

BtoBとBtoCでの作り方の違い

ここまでの5ステップはBtoB・BtoCに共通ですが、実際に作ると両者には大きな違いがあります。

意思決定の構造が違う

BtoCは基本的に1人(本人)が意思決定者です。BtoBは違います。利用者、起案者、決裁者、IT部門など、複数の関与者が異なる基準で判断します。カスタマージャーニーマップには、各フェーズで「誰が」関与するのかを明記する必要があります。

Gartnerの調査によると、BtoBの購買プロセスに関与する平均人数は6〜10人とされています。マップが「担当者1人の行動」だけを追っていると、稟議で止まる理由が可視化されません。

検討期間の長さが違う

BtoCの多くの商材は、認知から購入まで数分〜数日です。BtoBは数週間〜数か月、大型案件なら半年以上かかります。検討期間が長い分、途中で競合に流れるポイントが複数存在します。BtoBのマップでは、各フェーズの想定所要期間を書き込んでおくと、「このフェーズが長すぎないか」というチェックが効きます。

感情の主語が違う

BtoCの感情曲線は購入者本人の感情です。BtoBの場合、同じフェーズでも「担当者は乗り気だが、決裁者は慎重」ということがあります。理想的には、主要な関与者ごとに感情曲線を描くのが望ましいですが、現実的にはそこまでの情報が取れないことも多いです。最低限、「担当者」と「決裁者」の2つの視点を意識してマッピングしてください。

実際の案件でCJMを作り、成果につなげた事例

あるBtoBのクラウドサービス会社から、リード獲得は順調なのに商談化率が低いという相談を受けました。月に約80件のリードが入るのに、商談に至るのは8件前後。商談化率10%で、業界平均の13%を下回っていました。

まず、過去6か月間に商談に至ったリードと至らなかったリードを比較分析しました。すると、明確なパターンが見えてきました。

商談に至ったリードの共通点は、ホワイトペーパーをダウンロードした後、2週間以内にサービスページと事例ページを閲覧していることでした。

一方、商談に至らなかったリードの共通点は、ホワイトペーパーをダウンロードした後、サイトに再訪問していないことでした。

これをカスタマージャーニーマップに落とし込むと、「興味・情報収集」フェーズから「比較検討」フェーズへの移行に大きな谷があることが可視化されました。つまり、ホワイトペーパーまでは届くけれど、そこから先の情報が足りない、あるいは再訪問のきっかけがない状態です。

ここに対して打った施策は3つです。

1つ目はナーチャリングメールの設計です。ホワイトペーパーDL後の3日目・7日目・14日目に、関連する事例記事や活用ガイドへのリンクを送るステップメールを設定しました。

2つ目は事例ページの拡充です。当時3件しかなかった導入事例を、3か月で8件に増やしました。特に、顧客の業種・課題・導入効果を具体的な数字で記載することにこだわりました。

3つ目はサービスページの構造改善です。機能一覧を並べていたサービスページを、「課題別の解決ストーリー」形式にリニューアルしました。「こんな課題がある方へ」というセクションから入り、その課題をどう解決するかを説明する流れに変更しました。

結果、3か月後に商談化率が10%から18%に向上し、月間の商談数は8件から約15件に増えました。施策としてはそこまで大掛かりなものではなく、ナーチャリングメールの設計に約2週間、事例ページの制作に月1〜2本のペース、サービスページのリニューアルに約1か月。カスタマージャーニーマップでボトルネックを特定できていたからこそ、的を絞った施策で結果が出たケースです。

「作って終わり」にしないための運用方法

カスタマージャーニーマップの最大の弱点は、作成時点のスナップショットであることです。市場環境も顧客の行動も変化するので、作ったマップをそのまま1年間使い続けるのは危険です。

かといって、毎月マップを全面更新するのも現実的ではありません。クライアントに提案している運用サイクルは以下の3つです。

月次:KPIモニタリング

マップ上の各フェーズに設定したKPI(認知フェーズならセッション数、比較検討フェーズならサービスページのCV率など)を月次で確認します。大きな変動があればマップ上の該当フェーズに注釈を追記する。この作業は30分もあれば終わります。

四半期:ボトルネックの再評価

四半期に1回、感情曲線の「谷」が変わっていないかを見直します。施策を打ってボトルネックが解消されていれば、次に大きい谷に焦点を移す。新しいタッチポイント(新たにウェビナーを始めた、チャットサポートを導入したなど)があれば追加します。

年次:ペルソナとフェーズの全面見直し

年に1回は、ペルソナの妥当性とフェーズ定義の全面見直しを行います。市場環境の変化、新たな競合の出現、自社サービスの変更など、前提条件が変わっていれば、マップの骨格から作り直す。既存顧客3〜5人にインタビューを実施して、現時点の購買行動とマップにズレがないかを検証します。

Forresterのレポートでは、カスタマージャーニーマップを定期的に更新している企業は、そうでない企業に比べて顧客満足度の改善速度が2.4倍速いとされています。作ること以上に、更新し続けることがマップの価値を決めます。

カスタマージャーニーマップ テンプレート

以下に、すぐに使えるマークダウン形式のテンプレートを掲載します。BtoB版のシンプルなテンプレートです。GoogleスプレッドシートやNotionにコピーして使ってください。

BtoB向けカスタマージャーニーマップ テンプレート

# カスタマージャーニーマップ:[商品・サービス名]
作成日:YYYY/MM/DD | 更新日:YYYY/MM/DD

## ペルソナ
- 業種:
- 役職:
- 会社規模:
- 抱えている課題:
- 情報収集方法:
- 意思決定の基準:
- 意思決定の関与者:

## ジャーニーマップ

| 項目 | 認知 | 興味・情報収集 | 比較検討 | 社内稟議 | 契約 | 利用・定着 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 顧客の行動 |  |  |  |  |  |  |
| タッチポイント |  |  |  |  |  |  |
| 顧客の思考 |  |  |  |  |  |  |
| 感情(+3〜-3) |  |  |  |  |  |  |
| 課題・ペインポイント |  |  |  |  |  |  |
| 自社の施策(現状) |  |  |  |  |  |  |
| 改善施策(案) |  |  |  |  |  |  |
| 担当部門 |  |  |  |  |  |  |
| KPI |  |  |  |  |  |  |
| 想定所要期間 |  |  |  |  |  |  |

## ボトルネックと施策の優先順位

| 優先度 | フェーズ | ボトルネック | 施策 | 担当 | 期限 | KPI |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 |  |  |  |  |  |  |
| 2 |  |  |  |  |  |  |
| 3 |  |  |  |  |  |  |

## 運用メモ
- 次回見直し予定日:
- 前回更新からの変化点:

BtoC向けにカスタマイズする場合のポイント

BtoCの場合は、以下の点を調整してください。

  • 「社内稟議」フェーズを削除し、代わりに「口コミ・推薦」フェーズを追加する
  • ペルソナは業種・役職の代わりに年齢・ライフステージ・価値観を記載する
  • タッチポイントにSNS(Instagram、X、TikTok)やクチコミサイトを追加する
  • 感情曲線は購入後の体験(開封、初回使用、リピート)まで含める

よくある失敗パターンと回避策

カスタマージャーニーマップの作成で陥りがちな失敗を3つ挙げます。

1つ目は、「理想の顧客体験」を描いてしまうことです。マップに書くべきは「現状の顧客体験」です。「こうあってほしい」ではなく「実際にこうなっている」を書く。理想像は、現状マップを作った上で別途「To-Beマップ」として描きます。As-Is(現状)とTo-Be(理想)を混同すると、ボトルネックが見えなくなります。

2つ目は、社内の関係者だけで作ることです。マーケ部門と営業部門が会議室にこもって「顧客はきっとこう思っているはず」と推測で作るパターンです。これはカスタマージャーニーマップではなく「社内推測マップ」です。既存顧客への5人のインタビューで、推測の8割は覆ります。Harvard Business Reviewの記事でも、ジャーニーマップ作成において顧客の声を直接取り込むことの重要性が指摘されています。顧客の声なしにジャーニーマップを作るのは、地図を持たずに登山するようなものです。

3つ目は、情報を詰め込みすぎることです。冒頭で紹介した人材派遣会社のケースがまさにこれです。A0用紙にびっしり情報を書き込んだマップは、見るだけで疲れます。カスタマージャーニーマップは意思決定のためのツールであり、情報の網羅性が目的ではありません。パッと見て「ここがボトルネックだ」「次にやるべきはこの施策だ」とわかる粒度に留めてください。

弊社へのご相談

カスタマージャーニーマップは、正しく作って正しく運用すれば、マーケティング施策の精度を大きく上げるツールです。ただ、ここまで書いてきたとおり、「作ること」自体にはそこまで価値がありません。作ったマップを元に施策を動かし、結果を見てマップを更新するサイクルを回して初めて意味を持ちます。

株式会社ティーラが提供するCVアップパートナーズでは、カスタマージャーニーマップの作成から、そこから導き出される施策の実行支援まで一貫してお手伝いしています。LP改善、コンテンツ制作、ナーチャリング設計、CVR最適化など、マップ上のボトルネックに対応する施策を、クライアントのリソースに合わせた優先順位で実行します。

「マップは作ったけれど活用できていない」「どこから手をつけていいかわからない」という方は、まず現状の課題整理からお手伝いします。カスタマージャーニーマップ作成ガイドと施策テンプレートをまとめた資料をご用意していますので、こちらから無料ダウンロードしてください。


参考文献