先月、ほぼ同じ業種・同じ規模のクライアント2社に、同じAIツールを導入しました。

A社の担当者は、導入3日目には「もうこれなしでは仕事できない」と話していました。B社の担当者は、2週間経っても「なんとなく微妙なんですよね」と渋い表情。ツールは同じ。料金プランも同じ。違ったのは、AIに指示を出すときの「癖」でした。

クライアント企業のAI活用をサポートしていると、こうした差を何度も目にします。これまで数十社の現場を見てきて、はっきりわかったことがあります。AIを使いこなしている人には、共通する「習慣」があります。それは特別な知識ではなく、指示を出すときの思考パターンの違いです。

テクニック自体はシンプルです。ですが、これを「習慣」として身につけているかどうかで、AIから引き出せる価値が大きく変わってきます。

この記事では、クライアント先で観察してきた「AIへの指示が上手い人」の習慣を5つにまとめました。それぞれ、実際のプロンプトのbefore/afterも付けています。

習慣1:最初にゴールイメージを言語化する

5つの中で、これが最も重要です。残りの4つは、これの派生と言ってもいいかもしれません。

AIへの指示が上手い人は、チャット画面を開く前に「最終的に何が欲しいのか」を自分の中で固めています。逆に、うまくいかない人はAIの画面を開いてから考え始める。この差がそのまま出力の質に出ます。

「自分もゴールはわかっている」と思うかもしれません。ですが、ゴールの解像度が違うのです。

たとえば「ブログ記事を書いてほしい」。これもゴールといえばゴールですが、解像度が低い。上手い人は「30代の人事担当者が読んで『うちでもやれそう』と思えるような、採用ブランディングの事例紹介記事。2,500字。社内報告にも転用できるトーンで」くらいまで具体化してから指示を出します。

なぜこれが大事かというと、AIは「良い感じに察して」くれないからです。人間の部下や同僚なら、曖昧な依頼でも過去の文脈から意図を汲み取ってくれます。AIにはそれがありません。こちらが言語化しなかったことは、存在しないのと同じです。

Before

新規事業の企画書を作ってください

AIは「新規事業」が何の業界で、誰に向けた何なのか、一切わかりません。結果、教科書のような一般論が返ってきます。

After

月額制のオンラインフィットネスサービスの企画書を作ってください。
ターゲット:30-40代の共働き女性(ジム通いの時間がない層)
差別化ポイント:1回15分のプログラム+食事管理のAIアドバイス
想定価格帯:月額2,980円
用途:社内の経営会議で新規事業として提案するための資料
形式:課題→ソリューション→市場規模→収益モデル→ロードマップの5部構成

事業の輪郭が明確なので、AIは具体的な数字の試算や競合分析まで踏み込んだ企画書を返せます。

ポイントは「用途」を伝えていることです。「社内の経営会議向け」と書くだけで、AIはトーンを「説得力重視」に、構成を「意思決定に必要な情報を網羅する形」に調整してくれます。同じ内容でも「SNSで発信する用」ならもっとカジュアルで短い出力になります。ゴールイメージの中に「これを誰がどう使うのか」を含めるのが、上手い人の共通点です。

クライアントにいつも伝えているのは「AIに指示を出す前に、30秒だけ立ち止まって考えてください。『最終的にどんなファイル、あるいはテキストが手元にあればOKなのか』を、頭の中で映像化してから入力してください」ということです。この30秒のひと手間で、やり直しの往復が2〜3回は減ります。

習慣2:出力を「たたき台」として使い、自分で編集する

これは習慣というより、心構えに近いかもしれません。ですが、ここを勘違いしている人がかなり多くいます。

AIの出力をそのままコピペして使おうとする人がいます。「AIが作ってくれるなら手間を省きたい」と思うのは自然なことです。ですが、AIから出てきたものをそのまま使ってうまくいくケースは、実はそれほど多くありません。

AIへの指示が上手い人は、最初から「80点のたたき台が出てくればOK」と思って使っています。残りの20点は自分で磨く前提です。だから、プロンプトに完璧さを求めすぎず、手早く指示を出して、返ってきたものをベースに加筆修正する。

この割り切りが、結果的にトータルの作業時間を一番短くします。

あるクライアント(美容サロンの経営者)の話です。ニュースレターの原稿をAIに書かせていたのですが、「文章がなんだか機械っぽい。うちの店の雰囲気と合わない」と悩んでいました。見せてもらうと、たしかに文法的には正しいけれど、お店の世界観がまったく入っていない。

そこでお伝えしたのは「AIにまず骨格を作らせて、語尾や言い回し、エピソードは自分で差し替えてください」ということでした。AIが作った構成と情報の骨組みはそのまま使い、表現だけ自分の言葉に変える。これなら5分もかかりません。それ以降、その方のニュースレターは「AIっぽくない、ちゃんと店の空気が伝わる文章」になりました。

Before(完成品を一発で求めるプロンプト)

美容サロンのニュースレターを書いてください。11月号です。テーマは冬の乾燥対策。
お客様に親しみやすい雰囲気で、800字程度でお願いします。

無難ですが個性のない文章が出てきます。そのまま送ると「テンプレ感」が出てしまいます。

After(たたき台として使う前提のプロンプト)

美容サロンのニュースレター(11月号)の構成ドラフトを作ってください。
テーマ:冬の乾燥対策
構成:挨拶→本題(乾燥の原因と対策3つ)→今月のおすすめメニュー→締め
各パートは箇条書きで要点だけ。文章は後で自分で書くので、情報の骨組みだけお願いします。

情報の骨格がすっきり整理された状態で返ってきます。あとはそこに自分の言葉を肉付けするだけです。

この考え方は文章だけでなく、企画書、データ分析、コードなど、AIの出力すべてに当てはまります。AIに100点を求めるとフラストレーションが溜まります。80点のたたき台を最速で出してもらい、仕上げは人間がやる。上手い人はみんなこのスタンスで使っています。

習慣3:指示の「型」をストックしている

ここからの3つは、習慣1と2を土台にした効率化の話です。

AIへの指示が上手い人は、うまくいったプロンプトを捨てません。「前にこのパターンで良い出力が出た」というプロンプトを、どこかに保存しておく。そして次に似たタスクがあったとき、ゼロから考えるのではなく、ストックから引っ張り出してきて、データ部分だけ差し替えて使います。

地味な話ですが、これをやるかやらないかで作業スピードに大きな差が出ます。

たとえばNotionのデータベースにプロンプトのテンプレートを溜めておく方法があります。「月次レポート用」「メール文案用」「データ分析用」「議事録要約用」のようにカテゴリ分けして、使うときにコピペする。クライアント先でもこの方法を勧めていて、あるIT企業のマーケティングチーム(5人)にこの仕組みを導入したところ、「AI活用の属人化がなくなった」と好評でした。以前は担当者によってプロンプトの書き方がバラバラで、出力の品質にムラがあったのが、テンプレートを共有したら誰が使っても一定以上の品質が出るようになったそうです。

ストックの仕方は何でも構いません。Notionでも、Googleドキュメントでも、メモ帳でも。大事なのは「うまくいったプロンプトを記録する」という行為を習慣にすることです。

型の例:データ分析を依頼するときのテンプレート

あなたは[業界名]のデータアナリストです。
以下のデータを分析し、[分析の目的]を明らかにしてください。

【データ】
[ここにデータを貼り付け]

【分析の視点】
- [観点1]
- [観点2]
- [観点3]

【出力形式】
1. サマリー(3行以内)
2. 主要な発見(箇条書き、最大5つ)
3. 推奨アクション(優先度付き)

こういうテンプレートを1つ持っておくだけで、毎回「どう指示しようか」と悩む時間がなくなります。[ ]の中だけ入れ替えれば、どんなデータ分析にも使えます。

テンプレートがある人とない人では、同じ作業にかかる時間が大きく変わります。「AIをうまく使っている」と感じる人の多くは、単に良いテンプレートを多く持っているだけ、というケースも少なくありません。

習慣4:失敗プロンプトを記録して改善する

これは習慣3の裏返しです。うまくいったプロンプトを保存するのと同じくらい大事なのが、うまくいかなかったプロンプトも記録しておくことです。

A社の担当者(冒頭で触れた「3日目で手放せなくなった」人)は、これを自然にやっていました。Slackの個人チャンネルに「AI失敗ログ」というスレッドを作っていて、「このプロンプト→この出力→なぜダメだったか→次はこう変える」を簡単にメモしている。

たとえばこんな具合です。

プロンプト:競合分析のレポートを作って 出力:一般的な競合分析のフレームワーク解説が返ってきた 原因:自社の情報を一切入れていなかった。何と何を比較するのか不明 改善:自社の情報(事業内容、強み、ターゲット)+比較したい競合名+比較軸(価格、機能、サポート体制)を明示する

このメモ、1件あたり30秒もかかりません。ですが、これが蓄積されると「自分がどういう指示の出し方でつまずきやすいか」のパターンが見えてきます。

この方の場合、失敗パターンのほとんどが「コンテキスト不足」でした。指示の内容自体は悪くないのに、前提情報を省きすぎている。それに気づいてからは、プロンプトの冒頭に必ず背景情報を入れるようになり、一発で使える出力が返ってくる確率が上がったそうです。

Before(失敗した指示)

クライアントへの提案書を作ってください。DX推進の提案です。

一般的なDX推進の教科書的な提案書が返ってきます。クライアントの業種も課題もわからないので、刺さらない内容になります。

After(失敗を踏まえて改善した指示)

あなたはDXコンサルタントです。以下のクライアントへの提案書ドラフトを作ってください。

【クライアント情報】
- 業種:地方の食品製造業(従業員80名)
- 課題:受発注が電話・FAX中心で、月末の集計に丸2日かかっている
- 予算感:年間300万円以内
- IT担当者:1名(兼任)

【提案の方向性】
- 受発注のクラウド化(導入ハードルが低いもの)
- 段階的な導入(一気に変えると現場が混乱するため)

【出力形式】
- 現状課題の整理→提案内容→期待効果→導入ステップ→概算費用
- 各セクション200字程度
- トーン:専門用語を避け、製造現場の方にも伝わる表現

クライアントの状況に合った、具体的で実行可能な提案書が出てきます。

失敗の記録は、チームで共有するとさらに効果があります。ある人の失敗パターンは、他のメンバーも同じように踏む可能性が高い。1人の失敗を5人が回避できるなら、そのメモには5倍の価値があります。

習慣5:AIとの対話を「2往復以上」する

最後の習慣です。これも見落とされがちですが、AIへの指示が上手い人は、1回のやり取りで終わらせません。

「プロンプトを送る→出力を受け取る→終わり」。これが多くの人のAIの使い方です。ですが上手い人は、最低でも2往復はしています。

1往復目で方向性を確認して、2往復目で精度を上げる。場合によっては3往復、4往復する。これだけで、最終的なアウトプットの質が見違えるほど変わります。

なぜ1往復だと足りないのか。理由はシンプルで、どんなに良いプロンプトを書いても、1回で100点の出力が返ってくることは稀だからです。80点は出ます。ですが残りの20点は、実際の出力を見て初めて「ここが違う」「ここをもっとこうしたい」とわかる。その「見て初めてわかるズレ」を修正するのが2往復目の役割です。

ただし「もっと良くして」のような曖昧なフィードバックは意味がありません。具体的に、どこを、どう変えるかを伝えます。

1往復目のプロンプト

当社のWebサービス(BtoB向けプロジェクト管理ツール)の
ランディングページのキャッチコピーを10案考えてください。
ターゲット:従業員50〜200名のIT企業のマネージャー層
訴求ポイント:チームの稼働状況がリアルタイムで見える

10案が返ってきます。全体的に悪くはありませんが、やや機能説明寄りで、感情に刺さるものが少ない。

2往復目のフィードバック

ありがとうございます。方向性はいいのですが、2点調整したいです。

1. 案3と案7のトーンが良いです。この2つの方向性で、さらに5案追加してください
2. 「機能」ではなく「使ったときの体験」を軸にしてください。
   例:「進捗を見える化」→「金曜夕方の"あの案件どうなった?"がなくなる」
   このように、ユーザーの日常シーンに落とし込んだ表現を意識してください

2往復目で、刺さるコピーが出てきます。「良かった案を指定する」と「方向性を具体例で示す」の組み合わせが効いています。

この「2往復以上」の習慣は、慣れると自然にできるようになります。最初のうちは「1回で終わらせたい」と思いがちですが、2回に分けたほうがトータルの時間は短くなることがほとんどです。1回で完璧を狙って何度もプロンプトを書き直すより、ラフに出して修正を重ねるほうが楽ですし速い。

ちなみに、この習慣は対人のコミュニケーションにも通じるところがあります。上司に企画を持っていくとき、いきなり完成版を出す人と、まずラフ案で方向性を確認してからブラッシュアップする人。後者のほうが結果的に手戻りが少なく、上司からの評価も高い。AIとのやり取りも同じ構造です。

5つの習慣を振り返ると

ここまでの5つの習慣を整理します。

  1. ゴールイメージの言語化。AIに入力する前に「最終成果物の映像」を持つ。これが最重要
  2. たたき台として使う。100点を求めず、80点の土台を最速で得て自分で仕上げる
  3. 型のストック。うまくいったプロンプトを保存・再利用する仕組みを作る
  4. 失敗の記録。うまくいかなかったプロンプトもメモして、自分の「つまずきパターン」を把握する
  5. 2往復以上のやり取り。1回で完結させず、出力を見てから方向修正をかける

並べてみると気づくかもしれませんが、これらは「AIの高度な技術」ではありません。仕事の基本動作をAIとの対話に持ち込んでいるだけです。ゴールを明確にする、たたき台から始める、再利用できる仕組みを作る、失敗から学ぶ、フィードバックを重ねる。どれも、仕事ができる人が普段からやっていることです。

逆に言えば、AIの指示が上手い人は、AIに詳しいというより、仕事の段取りが上手い人なのだと思います。

同じツール・同じ料金なのに差がつく理由

冒頭のA社とB社の話に戻ります。

A社の担当者に「なぜそんなにすぐ使いこなせたのですか」と聞いたことがあります。返ってきた答えは、意外とシンプルでした。

「最初は全然ダメでしたよ。でも、2日目くらいで『これ、新人に仕事を頼むのと同じだ』と気づいたんです。こちらが丁寧に説明しないと、こちらが期待しているものは出てこない。新人がダメなんじゃなくて、指示がダメなんだと」

この感覚が、おそらく一番大事なことです。AIの出力が微妙なとき、ツールのせいにするのではなく、「自分の指示のどこが足りなかったか」を考える。その思考の向きが、使いこなす人とそうでない人を分けています。

そしてこれは、一人で試行錯誤するよりも、他の人のやり方を見ながら学ぶほうが速く上達する分野でもあります。プロンプトの書き方は業種や業務によって最適解が違うので、「自分と似た仕事をしている人がどう指示を出しているか」を知ることの価値が非常に大きい。

株式会社ティーラが運営に関わっているRIALA(リアラ)は、そういう場です。フリーランス、中小企業の経営者、マーケ担当者、エンジニア。いろいろな立場の人が、自分の仕事でのAI活用ノウハウを持ち寄っています。プロンプトのテンプレート共有も活発で、この記事で紹介したような「型のストック」が、参加した日から使える状態になっています。

「AIをもう少し上手く使えるようになりたい」。もしそう思っているなら、まず覗いてみてください。習慣は、一人で作るより環境ごと変えたほうが定着しやすいです。

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